映画『カメレオン 愚か者の楽園は賢者の地獄』の感想・ネタバレ:浮かび上がる恋模様
U-NEXTの見放題配信で映画『カメレオン 愚か者の楽園は賢者の地獄』を観たので、作品情報につづいて感想を書き残しておきます(すぐ下はネタバレなしの感想)
ラスト・結末までの簡易的なネタバレは「あらすじ」の項に隠し表示してあるので、鑑賞後のおさらいや、予習用に読みたいという方はそちらを参照のこと。
映画『カメレオン 愚か者の楽園は賢者の地獄』の作品情報
監督・脚本・製作・撮影
- マーカス・ミゼル
役名/キャスト
- パトリック/ジョエル・ホーガン
映画『ケージ・ダイブ』(2017):ジェフ役 - ドルフ/ドナルド・プラバタ
- フランク/ジェフ・プレイター
映画『ムーンインパクト』(2020):ボブ・フォスター役 - レベッカ/アリシア・リー・ウィリス
映画『タワー・オブ・ザ・デッド』(2010):マンディ役
予告編(海外版)
あらすじ
刑務所から仮釈放されたパトリックはLAで働き始めるが、前科があるためまともな職に就けない。勤務先では上司にどやされ、恋仲になった同僚女性も前科を知ると去っていき、皿洗いや清掃に明け暮れていた。そんな日々を送るなか、出所した刑務所仲間のドルフから、ある計画を持ちかけられる。それはパトリックが裕福な妻を誘惑し、密会中にドルフが妻を誘拐。その夫にパトリックが連絡し、「誘拐されたのでカネを払って助け出してほしい」と交渉する詐欺だった。その手口で数件のカネを奪うことに成功するも、刑務所に戻りたくないパトリックは辞めたいと告げる。それを許さないドルフは、次を最後にすると約束してカネ持ち妻を探すが、同じ頃、警察もすでに誘拐詐欺事件の捜査に乗り出しており…。
- 映画『カメレオン 愚か者の楽園は賢者の地獄』ラスト・結末のネタバレ(※押すと開きます)
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パトリックは最後のターゲットとして、地元の有名エンジニア、フランクの妻であるレベッカに狙いを定める。
ガードの固い彼女を口説き落としたパトリックは、ドルフと協力し、これまでと同様の手口でフランクから身代金をせしめることに成功するのだが、これは警察の仕掛けた罠だった。フランクとレベッカは一連の誘拐詐欺事件を担当する警察官だったのだ。
そうとは知らず、大金を持って身を隠そうとするパトリックとドルフ。
ドルフはパトリックの態度に違和感を覚え、別行動をするものの、身代金のなかにGPSを仕込んでいた警察は彼の位置情報を把握していた。やってきた警察官たちによって、ひとり建物の屋上に追い込まれたドルフは抵抗むなしく射殺されてしまう。
一方のパトリックは逃避行のさなか、心にモヤモヤを抱えていた。その正体はレベッカへの恋慕の感情。詐欺とはいえ、二人きりの時間を過ごした彼女を本気で愛してしまったのだ。
会って真実を伝えたい。
そう考えたパトリックはレベッカに電話をかける。連絡を受けたレベッカの心は揺れていた。警察官としての使命を帯びながらも、彼女もまたパトリックのことを愛してしまっていたからだ。
同僚らの捜査の網はすぐそこまで迫ってしまっている。正直、パトリックが逮捕されるのは時間の問題だった。レベッカは、同僚には内緒で彼の潜伏地であるモーテルに赴くと、ふたりはそこで愛を重ねるのだった。
明くる日、今度は警察官として、フランクや部下たちとモーテルを訪れるレベッカ。パトリックは部屋を向かいに変えていたため、捕まることはなかったが、覗き穴から制服姿のレベッカを見て驚愕する。
慌ててモーテルを飛び出した彼は予定していた高飛びを早め、逃走に成功。潜伏先突入が失敗に終わったことでレベッカたちによる捜査は終了し、事件はFBIに引き継がれることになった。
新たな地で静かな生活を送るパトリック。だが、脳裏によぎるのは、レベッカと過ごした短いながらも濃密な思い出だった。
インターホンが鳴る。
パトリックはレベッカがモーテルに来たときのことを思い出しながらドアを開けるが、そこに彼女の姿はない。あるのは自らが高飛びの前に郵送した小包。詐欺で得た金が入った小包が置いてあるだけだった。
映画『カメレオン 愚か者の楽園は賢者の地獄』の感想
「愚か者の楽園は賢者の地獄」という副題がイギリスの神学者・聖職者であるトーマス・フラーの言葉にちなむ、ということは冒頭でも語られていたが、この映画にこの言葉を引用する必要性については作品を観終わったいまこの時でもよくわかっていない。
この言葉が言わんとすることはわかる。いや、もしかしたらまったくわかっていないのかもしれないが、少なくとも、家から近いというだけで進学先の高校を決めたら、キレてロッカーを殴ったり、授業中にもかかわらず群れたサルのようにキーキー騒ぐクラスメイトばかりで毎日がキツかった経験(自分が賢者だとは言ってない)のある自分からすると「そうそう!さすがはフラー先生!よくわかってらっしゃる!」と賛辞を送りたくなるような言葉なのだ。
それでもやはり、この映画に引用するものとして上手くフィットしていない感が否めない(これに関しては自身がキリスト教圏に身をおいていないから、言葉のニュアンスを理解できていないというのもありそう……)。それというのも実際に物語で描かれていたのが、いわゆる愚か者たちが繰り広げるクライム・サスペンスというよりも、仮出所中に誘拐詐欺を働く伊達男パトリックと、そんな彼を追うことになる女性刑事レベッカの恋模様、それぞれの心の機微だったからだと思う。
まー、ある意味では愚か者の話と言えるのかもしれないけれど、自分の観たかったものとはあまりにもベクトルが違いすぎてゲンナリしてしまった。それに話の軽さも気になってしまう。軽い。
話の流れ的に、仮出所できたけどやっぱカネないから誘拐詐欺にハメようとしたら、ウソだろ?本気恋(マジコイ)しちゃったよ!という男と、おとり捜査で詐欺師と一晩過ごしたら、アラヤダ!本気恋(マジコイ)しちゃったワ!という女の話にしか見えないので「そうか…ふたりともどうしようもないから勝手にしてくれ」という感想のほかない。
そもそも自分が観たかったのはこんな恋愛ごっこなんかじゃなくて、改心して清く正しく生きようと決めた元犯罪者を待ち受ける社会の厳しさや、抗おうにもさまざまな要因が重なってズルズルと元いた世界に引き戻されてしまうやるせなさ、といったところ。
前者については冒頭でも薄給の皿洗いに従事するシーンなどで描かれてはいたけれど、そこをもっと深掘りしてくれたらよかったのに……と思ってしまう。犯罪者ではあるけども、周りが「いや、こんな環境じゃ罪を犯しても致し方ないよなぁ」と思ってしまうくらいの描き方をしてほしかった。そうでないと同房の仲間ドルフに誘われて再び悪事を働き始めるところで「本当に改心したの?」と意思の弱さを感じてしまうし、その後のパトリックの行動に興味を持てなくなってしまう。仮出所してすぐの再犯というのも心象はサイアク。それが流れ流れて恋模様に発展するんだから、それは「軽い」「勝手にしてくれ」という感想にもなるよねという感じ。
また、百歩譲って恋愛ごっこを描くにしても、レベッカの描き方はどうにかならなかったのかと思う。なぜ、刑事としてパトリックを追い詰める立場にいなければならない彼女が、彼のことを愛し始めてしまうのか。その部分の説明がまるでない。「優しくされたから……」としか思えない構成になっているのは、働く女性をナメていると言っても過言ではない。
レベッカを演じたアリシア・リー・ウィリスの表情は、職務遂行と本心のはざまで揺れる恋心を切なく演じているなーと好感を抱いたばっかりに、もう少し土台となる説明があれば……と口惜しく思ってしまった。
序盤こそクライム・サスペンスの顔をしていながらも、中盤以降で急にラブロマンスへとかじを切る。強引な話であることに変わりはないんだから、それでも鑑賞者をぐいっと引っ張っていけるだけの説得力がないと。どうもそのときの気分だけで突き進んでるという印象が拭えない映画だった。
勘違いしていたのだが、カメレオンという生き物は周囲の環境に合わせて体の色を変えている(擬態する)のではなく、気分や気温によって変える生き物らしい。ともすればこの映画、副題はともかく主題には忠実だったと言えるのかもしれない。
突如、浮かび上がったその恋模様は、お世辞にもあまりきれいなものとは思えなかったが。