映画『アブノーマル・ウォッチャー』の感想・ネタバレ:ドロドロ不倫には腐ったマヨネーズを添えて

U-NEXTの見放題配信で映画『アブノーマル・ウォッチャー』を観ました。
今回も鑑賞後に抱いた感想・雑感をネタバレ要素ありで書き残しておきます。
記事下にはコメント欄を設けてあるので、本作を鑑賞済みの方はぜひとも感想(映画、記事に対して問わず)などを残していただければ。
また「あらすじ」の項の末尾には、この映画のラスト・結末までの展開をごく簡潔にまとめて掲載中。内容をおさらいしたい、鑑賞前にざっくり内容を把握しておきたい方などは参照のこと。
↓ネタバレ要素なしの感想はこちら!
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映画『アブノーマル・ウォッチャー』の作品情報
監督・脚本
- ヴィクター・ザーコフ
※続編)映画『ゲストハウス 14Camera』(2018):脚本
役名/キャスト
- ライアン/PJ・マッケイブ
- クレア/ブリアンヌ・モンクリーフ
- ジェラルド/ネビル・アーチャムボルト
映画『ブロックアイランド海峡』(2022):トム役 - ハンナ/サラ・ボールドウィン
- ポール/ジム・カミングス
映画『サンダーロード』(2018):ジム役および監督・脚本
予告編(字幕版)
あらすじ
郊外の庭付き一軒家に引越し、新たな生活をスタートさせた新婚夫婦のライアンとクレア。しかし、新居には、見るからに怪しい大家の手によって、いくつもの監視カメラが仕掛けられていた。玄関、リビング、キッチン、さらには浴室やプール、便器の中にまで――、新婚夫婦のプライバシーは文字通り丸裸になってしまう。そんなことに全く気づかず暮らす2人だったが、クレアが妊娠してからというもの、ライアンは妻にストレスを感じ、若くて美人の部下ハンナと不倫するようになっていた。新婚生活にも暗雲が立ち込めるなか、大家の行動もエスカレートしていき…。
- 映画『アブノーマル・ウォッチャー』ラスト・結末のネタバレ(※押すと開きます)
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(あらすじの続き)
「クレアとは別れるよ」
そうライアンに伝えられていたハンナだったが、いつまで経っても行動に移さない彼に業を煮やし、ついには夫婦宅への突撃を試みる。
しかし、ハンナが家に来ることを知ったライアンは、彼女がクレアと鉢合わせてしまうことを危惧。妻を外食に誘って、家を留守にしていた。
そうとは知らず、ライアンの家を訪れたハンナ。不幸なことに、家には夫婦の留守を狙って侵入・物色していた大家ジェラルドがおり、彼女は大家から暴行を受け、家の地下に監禁されてしまうのだった。
悩みの種であったハンナが行方不明となったことで、夫婦の亀裂は避けられたように思われたが、数日後、ひょんなことからライアンの不倫の事実を知ってしまうクレア。
「出ていって!」
ライアンを追い出し、かつての愛の巣であるこの家で一人暮らしを始めるクレアだったが、あるとき彼女は家中に小型カメラが仕掛けられていることに気づき、その日一晩はライアンの宿泊を認めることに。
その瞬間も大家ジェラルドは監視モニターによる窃視をおこなっていたが、ふと彼が地下を映すモニターに目をやると、そこには脱走を試みるハンナの姿が映っていた。
焦るジェラルドは現場へ急行。到着時、ハンナは地上に戻り、大家の凶行をライアンらに伝えていたが、ジェラルドは対抗しようと試みるライアンや、逃げ出そうとするクレア、ハンナら全員を暴力でねじ伏せ、事件が明るみになるのを防ぐのだった。
数カ月後、新たな家を管理し始めたジェラルド。住人から家財の修理依頼を頼まれた彼はいつものようにそっけなく返事を返し、車に乗り込む。
助手席には、生まれて間もない赤ん坊の姿があった。
映画『アブノーマル・ウォッチャー』の感想

キモいオッサン大家の窃視に苛まれる新婚夫婦の様を描いたスリラー。
職場では若くして部下を持つ立場にいるライアンと、専業主婦で身重のクレア。新婚の二人はペットの犬とともに郊外にある借家へと生活の拠点を移す。
しかし、入居当日、鍵の受け渡しに現れた大家は、クレア曰く「腐ったマヨネーズの臭い」とも形容されるようなひどい体臭を放つ気味の悪いオッサンであった。
「ぜったいヤバいやつだって!人殺して土の中に埋めてそう……」
まるで初対面のひとに対して抱く感想ではないように思えるが、じつはこのクレアの予想は当たらずも遠からず。なんと家中に監視カメラを設置していたキモ大家は、ライアンとクレアの新婚生活を窃視し始めるのだった!
そんなこととは露知らず、クレアとの関係にマンネリを覚えていたライアンは新居で堂々の不倫を繰り広げるが、それを見たキモ大家は行為をつぎのステージへと進ませる……
「オッサンはたしかにキモいけど、同時に清涼感をも覚えてしまうフシギな作品だったなぁ」というのが鑑賞直後に抱いた感想だった。
オッサンはキモい。汗じみのついた汚い服装や、歯列はキレイ(入れ歯?)なのになぜか歯周病特有のスメルがツーンと漂ってきそうな口周り、その佇まいなど、このオッサンを構成するキモ要素には一切の余念がない。現実的な範囲でどうにかキモくしてやろうという気概を感じる。
そのためクレアによる「腐ったマヨネーズの臭い」という体臭の形容には「あぁ……まぁ、これならそんなかほりもするだろうよ」と思わされるほどの説得力がこのオッサンからは感じられたが、同時に、そんなイメージのしやすいものを例えてくるクレアのことまでちょっと嫌いになりかけた。
オッサンは目は虚ろ、口は半開きで表情も読めない。そんな彼がまるで限界デイトレーダーのごとくモニターを凝視しては興奮し、ときにシコティッシュを机に並べ置いたりするのだから、抱く感情、印象はシンプルにひとこと「キモい」にほかならない。それが作品的には褒め言葉になるんだろう。
しかし、その「キモい」が中盤から終盤にかけてひっくり返りそうになっていくのが本作のさらに面白いところだった。
このときメインのストーリーとして描かれていた不倫劇がイイ。ライアンとの関係にはすれ違いを感じながらも、生まれてくる子どもとの新しい生活を楽しみにしているクレア。
「(妊娠後期の身体でせっせとDIYに励みながら)ねぇ!ここに写真掛けを置くのはどうかしら?」
「あのさぁ……知らないよ。赤ん坊が見るわけじゃないんだから」
まぁ、それはそうなんだろうけども……もうちょっとこう、手心というか。まったくもってクレアに興味がないのがまるわかりのセリフでキツくなる。心の離れた男性の冷たさがリアル。
いっしょに楽しもうと思っていたのに、相手にはまるでその気がない。その気がないどころか、ダルそうに拒否までしてくる。自分のなかに「そこまで言う?」とガッカリを越えた怒りの感情が湧いてくる。ケチをつけられた気分になって、楽しみが半減、いや、消滅するといっても過言じゃないあのヒリついた感覚……それが疑似体験できてしまうみごとな一幕だった。
ライアンによる浮気の証拠隠滅もまた場当たり的でテキトー。世の中にはスマートに二人以上のパートナーを愛せるひとがいるのかもしれないが、ライアンはちがう。一時の快楽に溺れて、それ以外の時間は浮気がバレないように気を配り続けるだけの不毛な時間でしかない。しかも、はたから見ればその行動も不自然な奇行でしかないという……この一連の描き方が妙にリアルで生々しい。クレアの気持ちになって考えてしまうと、虚しさでいっぱいになってしまった。
そして、そろそろ画面越しのライアンを叱責しそうになってきたタイミングで、どっこらしょ、と文字通りの重い腰を上げるオッサン……!!
こちらの気持ちを代弁するかのようにドカドカと家庭を蹂躙していく姿には「待ってました!中村屋!」ならぬ「待ってました!キモ大家!」という大向こうをかけずにはいられない。
ところがだ。なにか彼の様子がおかしい。性的興奮からの行動というよりも、なんか怒りに駆られているような気がしてこなくもない。そして、ラストにはあの優しげな瞳とニッコリ笑顔。傍らには……
ここにきて、ただキモいだけでなく「幼少期に家族からないがしろにされる経験、境遇にあったのでは?」「それが原因で人格がねじれるも、このような行動に出たのでは?」彼にとってこの行動は、過去の自分に重ね見た、ある意味、救済の意味合いがあるものだったのでは?」という怒涛の考察の余地を残していくオッサン。
しかし、真相は藪の中……クライマックスにおいて猟奇的な犯罪者の過去が明かされる展開はよくあるが、ここまで寡黙に、語りを控えた展開も珍しいような。
『アブノーマル・ウォッチャー』、オッサンのキモさを明るくクリアに映し出すというファンサービス(?)だけでなく、単純だけどリアリティのある不倫劇を合間に挟むことで、終盤、彼がそれらのすべてを無に帰す行動に打って出るハカイシャに変貌する瞬間に清涼感すらをも覚える作品だった。オッサンの生い立ちや“あの子”の行く末も気になるところ。
欲を言えば、もっとハデに、もっとエキセントリックに暴れまわるオッサンが観たかったなというのと、もうちょっとばかし撮影へのこだわりを感じられたらよかった(正直、文頭に載せたガムテぐいーんくらいしか、こだわりの見せ場っていうものがなかった気がする……)のになという思いは抱かなくもないが、それはU-NEXTにて配信の始まった続編『ゲストハウス 14Camera』に託そうと思う。そちらはさっそくマイリストにぶちこんでおいた。期待を超えておくれ。
そういえば、本作の原題は『13 CAMERAS』となっているけども、あんまりカメラの台数が作品に絡んでくるってことはなかったな……単に不吉な数字だから使っただけなのかしら。続編では台数が14に増えてるから、それも意味しなくなってるけど。