映画『デスボウリング 真夜中の惨劇』の感想・ネタバレ:頑張れ!ラッキーストライカーズ
ジェイミー・ナッシュ監督の映画『デス・ボウリング 真夜中の惨劇』を観たので、作品情報につづいて感想を書き残しておきます(すぐ下はネタバレなしの感想)。
ラスト・結末までの簡易的なネタバレは「あらすじ」の項にまとめているので、鑑賞後のおさらいや予習用に読みたい方はそちらを参照のこと。
映画『デス・ボウリング 真夜中の惨劇』の作品情報
監督
- ジェイミー・ナッシュ
映画『ナイトウォッチメン』(2017)︰脚本
製作総指揮
- エドゥアルド・サンチェス
映画『ブレア・ウィッチ・プロジェクト』(1999)︰監督・脚本
役名/キャスト
- ケネディ/フランチェスカ・カパルディ
TVドラマ『ブログ犬スタン』(2012〜2015)︰クロエ・ジェームス役 - ブルース/ケン・アーノルド
映画『ナイトウォッチメン』(2017)︰ケン役 - テス/ミア・レイ・ロバーツ
予告編(字幕版)
あらすじ
血に飢えたカルト教団がボウリング場の営業最終日の夜に侵入し、客らを次々と襲い血祭りにあげていく。運悪く居合わせた高校生のケネディとテスは、殺人鬼たちから何とか逃げおおせるが、彼らの魔の手は近づきつつあった。たったひとつの希望は、ボウリング場のスタッフで疎遠となった父ブルースだけ。彼女はボウリング場を知り尽くしたスタッフのブルースと嫌いやながらも手を組んで、テスを救出し脱出を図ろうとするが…。
- 映画『デス・ボウリング 真夜中の惨劇』ラスト・結末のネタバレ(※押すと開きます)
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テスは単独行動を取っていたところをカルト教団の教主に捕まり、ケネディ、ブルースらをおびき寄せるための人質として使われてしまう。
対する2人は倒した狂信者の身ぐるみを剥いで変装すると、テスの救出作戦に打って出るが、あえなく失敗。逆に狂信者らに囲まれる絶体絶命のピンチを迎えてしまうことに。
しかし、その時だった。狂信者らのつける腕時計が一斉に鳴り始めたと思うと、彼らは「時が来た」と言い、次々と自死を遂げていったのだ。
本来その行動は場内の人間すべてを贄に捧げたのちに行う彼らの計画の締めくくり、旅立ちの儀式であったのだろう。
教主は長年の計画であった儀式の頓挫を嘆き、怒ると、3人に襲いかかるが、ブルースはそれを返り討ちに。斧で切り落とした教主の首はゴロゴロと転がり、ガターへと落ちていった。
かくしてカルト教団による一夜の惨劇から生還した3人はボウリング場をあとにするのだった。
映画『デス・ボウリング 真夜中の惨劇』の感想
本作の舞台となるのは、取り壊しを翌日に控えている寂れたボウリング場テラスレーン。
妻と別れ、以前はともにボウリングに勤しんだ仲でもあった娘ケネディの親権すらも取られた男ブルースが黙々と仕事をこなしていると、そこにはなんとケネディの姿が…!
「え!パパに会いに来てくれたのかい!?」なんて喜びもつかの間、ケネディは好きな女の子に連れられてきただけであって「あんなヤツがパパだとバレたくない!」と距離を取ってくる。
それに癇癪、パパ拗ねまくり。そこにカルト教団忍び寄り…というのがこの作品のおおまかなストーリーである。
これに対するファーストインプレッションとして間違っているのは重々承知しているが、自分は本作のジャケットにつけられた煽り文句に魅入られてしまった。
「お前ら全員死のストライクだ!」
なんて勢いのある。が、待てよ。死のストライクってなんだよ……っていう。
これはきっと「ボウリングに絡めてなんか上手いこと言おうぜ!」と考えた配給会社がマインドマップを広げた際、すぐ真隣に書いたであろうストライクというワードに「これと皆殺しって全部倒すって意味でかけられるやん!ええやんええやん!」と魅力を感じてしまったのが発端だろう。
しかし、そのアイデアを文章化する過程で「死のストライク」という言葉を作り出してしまったときに意味がねじれてしまい、結果、そのわかりやすい言葉とは裏腹になにを言っているのかわかるようでわからない絶妙なバランスの名文が生まれたのだと推測した(違っていたらすみません。というかたぶん違う)
こういう重箱の隅をつついてしまう、細かいことが気になってしまうのが僕の悪いクセ……と、自分の中の杉下右京も反省しきりだが、同時にこういうところを楽しむのもいわゆるB級映画の楽しみのひとつだとも思ったりするので、やはり前言は撤回したい。
さて、作品に関係ないところを500文字も書き連ねられてはジェイミー・ナッシュ監督も可哀想なのでようやく感想を書き出していくとすると、本作については意外や意外、やさしく、すっきりと、爽快な気分にさせてくれるような作品だったなぁ……という印象が残っている。
無論、それは期待以上にグロ描写がしっかりと描かれていて気分がいいとかそういう意味ではない。逆にそこまで期待していなかった設定部分、こじれていた父子関係の雪解けが70分という短い本編の中で、カラッとではあるもののよく描かれていたように感じたという意味である。
精神的にも疎遠となっていた親子がなにかをきっかけに協力し合い、やがては心の傷や仲を修復する…というのはよくある話で、同じジャンルに当たるであろう映画にもアレクサンドル・アジャ監督の『クロール 凶暴領域』(2019)なんて作品があった。
この作品では凶暴なワニが障害となっていたが、本作に置きかえるのならば、まさにカルト教団の立ち位置がそれに当たるような。
それでもこのふたつの作品の鑑賞後の印象には違いを覚えるな、なんでだろうな……と考えていると、『クロール 凶暴領域』にはワニの怖さを存分に描いたうえで家族関係の話は“添えていた”ように自分は感じたのに対し、本作『デス・ボウリング 真夜中の惨劇』はわりとカルト教団の襲撃描写に関してはなまっちょろめで、父子関係、交友関係のほうにウエイトを置いて作っていたように感じたので、バランスの面に違いを覚えているのではないかという考えに至った。
そう、正直なところ、本作のカルト教団の襲撃にはなまっちょろさを感じている。
彼らが手斧を振りかぶり常連客どもを叩き斬るシーンは何度も出てきたが、叩き斬られる側がいまどれだけの損壊状態にあるかはあんまり映してくれないし、そのときの音もトフ、トフ……と汁気がなくて味気ない。
でも、味気はないんだけども、そもそもここがメインじゃないんだろうなと納得して観ていたところもあるというか、パーフェクトを狙うガチ勢常連客の親指だけ切り落とす、ゲーム中に「スプリットをキメるなんてカンタンよ」と息巻いていたケネディが迫りくる2人の狂信者に対してボウリング玉を一投し、スプリットをキメて倒して伏線回収……なんておしゃれなシーンだけに楽しさを覚え、満足していた。
そうそう。おしゃれといえば、クライマックスでは計画が破綻して主人公たちを「ドブネズミ!」と罵った教主の首が切られてガター(溝)へ……なんてシーンもあったが、このときの教主は翻訳前もドブネズミを指した言葉を言っていたのだろうか?(だれか知っていたら教えてください)
もし違うのだとしたら、これは翻訳の妙だろう。「ドブネズミはテメーだ、溝に帰っとれ」的な演出に感じて、これまたおしゃれだなぁ……と思ってしまった。少なくとも死のストライクよりかはうまくかかっているだろう。
話を戻して、さきほども記述した父子関係の雪解け描写に良さを感じた理由であるが、これはそちらにウエイトが置かれていたように感じた以外にブルースというキャラクター、それを演じたケン・アーノルドの演技も影響しているのではないかと考えた。
粗野で、ノンデリで、全ティーンエイジャーの宿敵のようなムサい男だが、愛するケネディのためならきっとなんでもする男ブルース。そんな男をケンはまるで大型犬のように喜怒哀楽の感情たっぷりに演じていて、用具室の中で見つけたチェーンソーを手に取ったときには、まるで腹痛をいとわず「もう一本!」と交換に向かうアイスの当たり棒を手にした子どものようにきらっきらな瞳でいた。
ケネディにとっては大きな問題であるブルースとの関係であっただろうが、一歩引いた身から観ている側からすると「(ほかにも問題は山積していたのかもしれないが)思春期にはキツいだろうけど、それを乗り越えられたらいいパパだよなぁ……」という目線で観てしまっていたのだ。
そしてそんな純真すぎるほどの愛情が土台に感じられたからこそ、中盤からの息の合ったチームプレイには嬉しさを覚えたし、エンドロールを迎えるころには「もし叶うならば2人にはまた大会に出て、あらたな思い出を作ってほしいな」という思いにさせられたのだと考えた。
まぁ、まちがいなく何度かはクールダウンの時間も必要になってきそうな親子であるが、いつかきっと、ね。頑張れ!ラッキーストライカーズ!
P.S. ケネディとブルースがピンセッター裏を抜けるシーンでケネディが投げかけた「なんでやつらは襲ってくるの!?」的な質問に対し、ブルースが答えた「ここがボウリング場だからだな」から始まるボウリング史の解説だが、「んなわけないだろ」と思っていたらどうやら作り話でもないようで驚いた。
もともとボウリングは倒すピンを災いや悪魔に見立てて、それを沢山倒すことが出来たならば、その災いなどから逃れることが出来るという一種の宗教儀式であった。
しかし倒すピンの数やそれに応じた並べ方も場所や地域によってさまざまであった。それを中世ドイツの宗教革命家として知られるマルティン・ルターが、倒すピンを9本にし、並べ方もひし形にして、ボウリングの基本的なルールを統一したとされ、これが近代ボウリングのルールの原型になっていったと考えられている。
教科書に載っていた(とはいっても免罪符批判でしか知らないが)マルティン・ルターの名前がこんなところで出てくるとは……歴史って面白いなぁ。